組合活動を見直してみよう−ヒント・ポイント

1、組合役員を悩ます3つの悪夢

@組合員が組合活動に関心を示さない、協力しない。

A職場集会に集まらない、集まっても発言しない。発言してもいつも決まった人。

B組合役員のなり手がいないし、選ばれても“やる気"に欠けている。

 
 <組合役員が考える「組合強化」策>

@組合員が組合に関心を持つ       59.1%

A組合役員の政策・企画カを高める    23.8%

Bもっと職場の問題を取り上げる     21.1%

C組合員教育をもっと強める       19.3%

D組合の職場組織を充実・強化する    17.9%

1986〜87年の労働調査協議会アンケート(複数回答)


 <組合員が考えていること> 

@組合自身も毎年ワンパターンな活動の繰り返しで、マンネリ化している。

A組合が何を目指して、何をやろうとしているのかよくわからない。

Bもっと自分たちの意見を聞いてほしい、そして病院に伝えてほしい。

C組合費が高い、もっと節約して。使い道を考えて。

D本音と建前が違う。言うこととやることが違う。

E役員だけの組合、役員の態度が官僚的。

F意見や批判をすると、それじゃやりなさいと言われる。次から次に役、仕事

を押し付けられる。


   *「組合員の組合離れ」は結果であるが、組合役員にはそれが「原因」と映っている。
     「結果」の「原因」を探ってみよう。

 

2、できることからやってみよう


 「不満の方程式」(理想−現実=不平・不満)から
           「勝利の方程式」(現実+自分たちのできる
こと=目標、理想)へ

1)集会・会議の持ち方

 □4つのタイプ @情報伝達型、A意見調整型、B問題解決型、C企画立案型、タイプに合わ
  せたすすめ方、配慮が重要。

 □開催通知を出す @会議の開催目的、A議題・議事進行予定、B参加者に望むこと(資料に
  
目を通す。意見をまとめておいてほしい等々)

 □終了時間を明示してからはじめる。

 □議事進行のメモ、会議の到達目標を明確にしておく(開くことが目的にならないように)。

 □会議の到達の確認、今後の提案、感謝の言葉で終わる。


2)ちょっと気をつけたいこんな点・ちょっとしたテクニック

 □「口は1つ耳2つ」=「聞く」から「聴く」へ

   傾聴のスキル@相手の目を見つめながら聴く、Aうなずきながら聴く、B相槌を打ちながら
   聴くCメモを取りながら聴く、D受け止めたことを確認しながら聴く、Eさらに理解を深
   めるために質問しながら聴く

 □質問の種類 @全員への質問、A個別質問、Bリレー質問、C逆質問

 □質問の種類パート2 @拡大(⇔特定)質問、A未来(⇔過去)質問、B肯定(⇔否定)質問

 □論破しない、論争に勝たない(論破することと相手が納得することとは別。むしろ相手は自
  
分の意見に固執しがち)
  □発言を引き出す4つのポイント @発言内容によい悪いの批判はしない、A発言の内容、レ
  ベルは問わない、B発言量は多いほどよい、C他の人の発言に便乗した発言や、思いつき発
  
言を歓迎する
 □改革に踏み出す3つの方法 @改革はすぐには成功に結びつかない事を知る(⇔「失敗」を
  
想像し恐れてしまう)、A失敗の積み重ねが「改革」であることを知る(新しいことにチャ
  
レンジしなかったことが本当の失敗)、B知識は行動に移されてはじめて知識となることを知
  
る(⇔議論しているだけで行動している気分になる。問題を解決できていると錯覚する)

 

3、労働組合は何故必要か?−組合の理念をはっきりさせる

 

1)何故必要か−思うままに挙げてみると

@労働組合がなければ、労働者一人ひとりは弱い存在であり自己主張かできなくなってしまう

A労働組合がなければ、経営者の思うままで、賃金や労働条件を低く押さえ込まれてしまう。

B労働組合がなければ、労働者は雇用を維持することができない。

C労働組合は単なる組合員の利益代表としての活動に限らず、社会的弱者や社会構造のひずみ
 
  の問題を取り上げ、社会的責任(公正や正義の追求)を果たす存在である。

 

2)そんなに大切な組合なのに何故魅力がない?

 @1)の諸点は、満足のための「前提条件」。満足させるためには「+α」が必要。

 A1)の諸点は、労働組合結成の「歴史的な原点」。(大脳の古・旧皮質)

  民間病院などで組合を新規に結成した場合などには、典型的に自覚できる。

 B既存の組合では、「+α」が必要。「+α」を、労働組合=サービス業の観点から探る。
   「顧客(労働組合員)満足度」、「マーケティング」の必要性。

  「組合員の組合離れ」→「組合の組合員離れ」の観点。

 

3)「+α」を探る

 

@マズローの要求論をヒントに

組合の活動

マズローの要求階層

企業の活動

 

1.自己実現欲求

目標管理、自己申告制度、フレックス・タイム、

公募制

 

2.承認の欲求

表彰制度、役職制度、昇進・昇格制度

労使協議会・文体レク活動

3.所属と愛の欲求

社員旅行、QCサークル

労働条件・安全衛生・

共済活動

4.安全欲求

労働・社会保険、終身雇用、定年延長

賃金闘争

5一生理的欲求

最低賃金、社宅・寮

 
   □組合が提供する「4」、「5」に関するサービス、商品は多様。しかし、「物」・「量」・
  「ハード」の側面が強い

  「物から心へ」「量から質へ」「ニーズからウォンツへ」

  □組合員が求める5つの視点

   @時間重視 A利便性重視 B個性化重視 C体験重視 D合理性重視
 

  A労働組合のコミュニケーション機能に着
   □重視すべき取組みのアンケートでは7〜8割が「賃金・労働条件」と答える。ところが組
   合満足度に影響する項目としては、「声の反映」が「賃金水準」の2倍を超える。アンケー
   トに現れない「声亡き声」読み取る。(
1997年、M食品労組を対象にした活性化研の調査)

  □職場集会、会議、アンケートの工夫。

  □「声の反映」の要求は、対組合と同時に対経営についても言える。

   *経営に対して「声の反映」ができていないことが、組合への不満の1種となるのでは。

   *「声の反映」は、経営ルート、組合ルートとあり、更にそれぞれに複数のルートがある。 
      組合ルートが団交だけに単純化していないか。経営ルートの情報交換の不十分さを分析し
    それを補
う複数のルートを研究すべき。経営への声の反映の仕方の工夫。


  

 
   □要求実現の方法の工夫

   ・団体交渉単線型 → 複線型(@団交+労使協議)

   ・労使協議の場:経営委員会・労使協議会、衛生委員会、医療事故対策委員会、経営再建・
    経営対策委員会等々。
      「単発型」から「常設型」へ。
      「常設型」であってはじめて「企業の病気を知らせる神経」の役割が果たせる。

 

4)思い込みからの脱却

 @方針(商品のカタログ)の提示と方針の正しさ(商品のすばらしさ)の説明を「要求の獲得(
  現)」と思い込んでいるのではないか?
 A評価の方法を「要求の正しさ」、「要求の高さ」から
  「到達した成果」、「組合員の満足度」へ転換する必要性。
   *こんな総括を毎年繰り返していませんか?
   ・実現はできなかったけれども要求の正しさに確信を持とう
   ・引き続いて運動と団結を強めてガンバロー
 B要求獲得(実現)の好例をつくろう−方針の単なる提示ではなく、獲得・実現のための方策
  と手立てを取り、途中で点検し対策をとろう。

  *達成感の実感が重要

   ・サービス残業をなくす

   ・年休の完全取得

 

4.社会経済的背景

 

1)「低成長」時代への変容

   1955年〜60年代の高度経済成長

   1973年以降の中成長

   1991年バブル崩壊以降の低成長・マイナス成長

   *戦後の「飢餓」的要求→高度成長期の「量」的要求(3Cなど耐久消費財の普及)→
     「生活の質」などを考慮した要求

   *「成熟化経済」の特徴 @ソフト化 Aストック化 B自由化 Cハイテク化
 

2)国家の経済・財政政策の変容

 社会主義国に対抗する「福祉国家」政策(ケインズ政策による総需要喚起、大きな政府)

  *日本の場合「福祉」国家。73年以降。
       スタグフレーションと国家財政の破綻→「福祉国家」路線の見直し

  *80年代後半からの社会主義体制の崩壊が重なる。
    *ケイインズ政策の修正を迫られる。

 

3)地球環境問題の重大化

 「大量生産・大量消費・大量廃棄」社会→「持続発展可能な社会」へ

  ・フローとしてのGDP、消費の極大化の見直し。企業行動としては、「拡大志向」「マ
    ーケ
ットシェア極大化」→「収益極大化」(生産の拡大なしで可能)への変更
   ・「自由競争」と「共生」との調和
    ・「大きな政府」→「賢い政府」(これと対でNPOの活動の重視)

      *大幅賃上げ・総需要喚起(GDPの6割を占める個人消費)の見直し。ストック型生活の提案。
      *何でも「政府に」「行政に」という時代は過ぎた。租税負担率を引上げるのか、それを抑えNPO等で国
        民・住民が積極的に政治にかかわっていくのか。「行政責任の放棄」という考え方の再考。

     ○勿論前提がある。経営側の社会的責任の自覚と実効。政労使の信頼関係・合意。
       社会的配分における最低生活の保障と公平感の確保。


5.成熟化社会の消費者のあり方


  @市場経済における「主権」の持ち主が自分であることを自覚し、価格と品質にたいする感性
  を研磨し、自由主義社会のルール違反をおかす企業を市場を通じて懲罰しなければならない。

  A自由主義社会のルールに違背する行動に走る政治家や政党を、投票を通じて懲罰しなければ
  ならない。

  B企業行動のあり方、たとえば文化、芸術、福祉への支援活動、地球環境への配慮、自由主義
  社会のルールの順守、製造物責任
(PL)の自覚などを、企業の製品の「品質」の一部にカウン
  
トすべきである。
   *価格の安さより、地球環境との調和性を商品選択の基準にする等。

  Cみずからが「地球市民」であることを自覚し、大量消費、大量廃棄の慣習をあらため、適正
  消費、極少廃棄、リサイクル、省エネルギーなどの生活慣習、メタボリズム
(代謝)型ライフ
  ス
タイルになじむべきである。


 (労働組合活性化研究所の西尾力氏の諸著述、佐和隆光氏の「平成不況の政治経済学」等を中心に田口の責任でまとめた。200211月)