県医労連速報 地域に信頼される病院作りめざして
県母親大会でシンポ開催
 2004.8.4

 頻発する医療事故、公的病院再編成の推進....これからの医療提供体制はどうなる?この疑問にズバッと答えるシンポジウムが、7月18日に開かれました。
 会場は高知大学、県母親大会の県医労連担当の分科会です。参加者は40名でした。


シンポジストは次の通り。

医療法人近森会理事長    近森 正幸 氏    
佐川町立高北国民健康保険病院院長 
和田 幸久 氏
佐川の医療を守る会会長  坂本 貞雄 氏
高知県医療対策課課長   家保 英隆 氏
高知県医労連書記長     田口 朝光 氏


公的医療機関の役割の再定義必要 田口
地域地域で医療提供のあり方を検討 家保


 コディネーター役の田口書記長が、シンポの趣旨を説明し、「医療費抑制と規制緩和のターゲットとして公的医療機関が縮小再編・民間売却の攻撃にさらされている」、「しかし、公的医療機関がこれまで通りで良い訳はなく、公的医療機関の果たすべき役割を再定義し、理念中心の分母型経営(役割を果たすことによって収益を上げる)をめざすべき」、「役割の柱は地域包括医療の実施と医療連携の中核となること」と問題提起しました。
 続いて家保課長が、県内の医療提供体制の特徴を説明。「高知の病床は全国に比べ極めて多い。しかし、県内4つの医療圏のうち高知市を中心とする中央医療圏に偏在している」、「しかも、病床区分を見ると療養病床が5割を超えている。全国は3割。中央医療圏以外では一般病床は必ずしも多いとは言えない。療養病床の担い手は民間。一般病床の担い手の中心は公的病院」、「従って、行政と住民がその地位地域にあったあり方を考えていく必要がある。その中での公的医療機関の役割は、療養型ではなく一般病床、しかも高度な部分ということになるのではないか」と発言しました。

チーム医療と地域医療連携がカギ 近森

 近森理事長は、「地域に信頼される病院とは、患者さん中心の病院。それは24時間、365日対応し、安全、安心、信頼される質の高い医療を提供する病院のこと」、「そのためには、チーム医療と地域医療連携が大事」、「患者さんの立場に立った医療と良質で効率的な医療を提供する病院を評価できないだろうか?ということで、第三者の日本医療機能評価が設立された。これからは、医療評価の受審が最低基準になる」と指摘しました。

高北病院を守れの1万の署名が力に  坂本
再建へ向け地域医療連携などに全力  和田

 佐川の医療を守る会の坂本会長が、町立高北病院の経営危機にあたって、「守る会」を再結成し、その後署名運動や議会陳情、県への要請、政策提言などを行ってきた経過を報告。「署名は町長宛と知事宛であったが、人口1万5千の町で1万を超えた。この署名に込められた住民の思いが町長を動かし、議員を動かした。4月から新体制もスタートしたが、再建の目標からすれば緒についたばかり。病院と住民が結びついていけば、町民のための病院として再建できると確信する」と発言しました。
 4月から高北病院の院長に就任した和田氏は、「高北病院はこれまで、訪れる患者のみを対象にし、地域住民の健康づくりに貢献するという公立病院の役割を果たしてこなかった。また、リーダーシップの欠如により地域住民の要望に沿った病院経営の戦略がなく、旧態依然たる経営をしてきた」、「多くの困難に直面し改革委員会が設置され、3月に報告書が出された。それに沿って今新体制で再建へ向け全力を挙げている」、「公立病院としての施策の展開では、地域の医療機関との連携と保健・医療・福祉の包括医療の展開をめざしている。地域医療連携室を設置し、近隣町村含めた医療機関の連携の体制を模索している。将来的にはベッドのオープン化も目指したい。住民ボランティアのサポーターズ・クラブも発足した。住民の方々の力を借りながら再建を果たして行きたい」と意気込みを語りました。

医師確保問題:医療機関の削減か行政の役割か

 その後フロアーからの意見を受けて討論しました。その中で郡部での医師確保問題が出され、家保氏は「県立病院を中心に研修病院の体制を組み、公立の梼原、大月、嶺北、仁淀病院に協力病院になってもらっている。いまは、医局の教授の命令で動く時代ではなくなった。まずは、各病院があそこに行って医療技術を身につけたいと思われるような魅力ある医療を展開すること。それは、何も高度医療だけとは限らない」と発言。近森氏は、「医療機関が多すぎるのでベッド当たり医師数などが少なくなっている。もっと病院を減らすべき。医療資源は有限であるという認識が必要。郡部に総合病院を建てても採算は合わない。交通機関も発達してきた。機能分担、機能の絞込みを行い、連携を強化すべき」という持論を展開。田口氏は、「医療資源の集中する都市部では通用しても、中山間では行政の役割が重要。県で医師を一括採用して医師のライフステージ、研修の要求に合わせて市町村立病院含めてローテーションしている県もある」と指摘、「この場では時間もなく結論は出ない。厚労省、文科省、総務省の省庁連絡会議は各県に通達を出し、医師確保問題での協議会の設置を指示しているが、住 民を交えた開かれた場での議論が必要」とまとめました。

医療センターの開院でどうなる高知の医療
公立病院の最大の問題は人件費?

 フロアーから、「来年3月には高知医療センター(県立中央病院と高知市民病院の統合病院)が開院するが、今後の医療提供体制の再編にどう影響するか」との質問が出されました。これに対して近森氏は、「医療センターについて税理士に依頼して分析した。高度な医療のすべてを医療センターでやっても採算が合わない。それだけ過大投資している」、「高速道路も整ってきており、急性期医療については医療センターへの一極集中的な状況になるのではないか」と答えました。
 また、これとも関連して近森氏は公立病院のあり方について、「公立病院は多額の繰入がある。それが人件費に回っている。民間病院は、さまざまな努力をしている」と発言。田口氏が、「民間病院が低すぎるという側面がある。努力しているというが、賃金を削っているのが大半。公立病院も民間病院並みの賃金であれば楽にやれる」「公立病院のあり方は問われなければならないが、主犯格は設置者と管理者。それがいつの間にか共犯者の職員が主犯のように仕立てられ、人件費削減がやられる」、「きちっとした理念の再建が最重要」と発言しました。

 2時間半あまりのシンポジウムはあっという間に終了しました。
当面の再編成の矢面に立たされている公立病院は勿論、療養病床の施設化や100床代の中小病院の再編も必至であり、そのような中で安全・安心の医療提供体制を構築していくのかは地域の重要な課題となっています。個々の医療機関のあり方と同時に地域の医療提供体制のあり方が、鋭く問われています。その中で公私の医療機関がどのように連携を図り、行政がどのような役割を果たすのか、また、患者が自分の病気や医療機関との新たなかかわり方を見出していくのか、重要な課題に答えを出していく第一歩になったシンポジウムといえます。