労働契約について


病院との様々なトラブル発生の原因の一つが、労働契約が不明確なことです。就職する際は、「まずは就職」となりがちです。そこで、労働契約にまつわる、法律関係を以下概略説明しましょう。


 

1、労働契約とは


「就職する」ということは、就職先である病院と「こういう条件で働く」という約束を結んだことになります。そして、この約束のことを「労働契約」といいます。

ポイント
■労働契約は就職するときから退職まで会社のさまざまな場面に深くかかわってきます。
例えば、

@仕事の内容(配属先、転勤や配置転換による職種変更など)

A賃金(賃金の決定そして計算や支払方法、昇給など)

B労働条件(労働時間や休憩、休日など)
*だから労働契約の内容があいまいだと、後でいろんなトラブルが起こりやすくなり、「こんなはずじゃなかった。」ということにもなりかねません。

■ほとんどの病院には労働条件や職場の規律などを決めておく「就業規則」というものがあります。この就業規則を提示してその内容を説明することが普通です(参照就業規則)。



2、労働基準法では


経営者は次にあげるような労働条件をはっきり示さなければならないと定めています。(労働基準法第15条)


書面による明示義務のあるもの

(1)労働契約の期間

(2)就業の場所・従事する業務の内容

(3)始・終業時刻、所定労働時問を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項

(4)賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項

(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む。2004年1月から)
 *(4)以外は、1998年の改定で追加されたもの。
 *これらについては労働条件通知書を活用して明らかにするよう示しています(施行規則5条)


口頭の明示でよいもの

(1)昇給に関する事項

(2)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項

(3)臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項

(4)労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項

(5)安全・衛生に関する事項

(6)職業訓練に関する事項

(7)災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項

(8)表彰、制裁に関する事項

(9)休職に関する事項


注意点
 労働基準法のほとんどの規定は、経営者はこうしてはならない、こうしなければならないというような経営者側にさまざまな義務を課しています。
 さらに、労働基準法に違反した経営者には罰則規定が適用されます。労働基準監督署は経営者側がこの違反を犯さないように取り締りや指導を行っています。労働基準監督署は国の役所で、各都道府県に配置されています。



3、労働契約に病院がつけてはならない条件


労働者の足カセになるような条件を病院がつけることは許されません。

 


@賠償予定の禁止(労働基準法第16条)
 労働者の不注意で病院に損害を与えたり、途中で辞めたときの違反金や損害賠償の金額をあらかじめ決めておくというのは許されません。
  
注意点
 法律では、損害賠償の金額を
予定することは禁止されていますが、経営者が実際に損害を受けた時に損害賠償を請求することまで禁じている訳ではありません。

A前借金相殺の禁止(労働基準法第17条)
 労働者に働くことを条件に金を前貸をして、労働を強制したり、労働者として拘束したりすること。そして、前貸分を勝手に毎月の給料から差し引くことなども許されません。

B強制貯金の禁止(労働基準法第18条)
 経営者が、毎月の給料から貯蓄をしなければならないという条件をつけることもできません。

C勤める期間を決める場合は、原則として3年を越える長い期間に決めることはできません(4.労働契約期間参照)。

D不当労働行為(労働組合法第7条第1号)
 会社が労働者を雇うときに労働組合に入らないことを採用の条件にすることは許されません。
 →黄犬契約という



4、労働契約期間(労基法第14条)


労働契約には、期間の定めのない契約と期間の定めのある契約とがあります。後者の場合原則3年を超えてはならないとされていますが、つぎのような例外が認められています(労基法第14条)。2004年1月施行。


3年を超えて契約することが認められるもの(例外)
 次のうちいずれかに該当する場合に限られます。

《特例1》
 専門的な知識、技術又は経験(以下「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準(※)に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
                                   → 上限5年
《特例2》
 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約  → 上限5年
《特例3》
 一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約有期の建設工事等)
                                   → その期間


労働大臣が定める基準
 博士の学位を有する者
 公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士又は弁理士のいずれかの資格を有する者
 システムアナリスト試験又はアクチュアリー試験に合格している者
 特許法に規定する特許発明の発明者、意匠法に規定する登録意匠を創作した者又は種苗法に規定する登録品種を育成した者
 大学卒で実務経験5年以上、短大・高専卒で実務経験6年以上又は高卒で実務経験7年以上の農林水産業の技術者、鉱工業の技術者、機械・電気技術者、システムエンジニア又はデザイナーで、年収が1075万円以上の者
 システムエンジニアとしての実務経験5年以上を有するシステムコンサルタントで、年収が1075万円以上の者
 国等によりその有する知識等が優れたものであると認定され、上記1から6までに掲げる者に準ずるものとして厚生労働省労働基準局長が認める者



5、お礼奉公



お礼奉公
とは、「奨学金」の「返還」に絡み、上記の@、Cの不当な条件をつけることです。
以下いくつか注意点を見てみます。

@「奨学金」とは言っても、実際には賃金の一部に過ぎない場合が大半です。
 労働契約と奨学金貸与契約とをゴッチャにし、賃金の一部を「奨学金」と称して返還を求めたり、返還免除の代りに一定期間の就労を義務づけたりしているというのが、「お礼奉公」の一つの側面です(この場合には労基法24条の賃金の全額払いの原則違反となります)。
 学校が終わった後、日曜、祭日、夏・冬休みに働いた賃金がキチッと払われているか確認しましょう。払われていない場合には、未払い賃金として病院側に請求できます。

*医労連の運動で、このようなトラブルをなくすため厚生省は「労働契約と奨学金契約とは、別個に結ぶように」という通達 を出しました。
*また、通達は看護学院(特に医師会立)側が、病院との労働契約を学生に強制しないようにも求めています。


A一応、労働契約とは別個に奨学金貸与契約を結んでいても、実際の運用では多くの問題点をまだまだ残してます。
 奨学金の返還に絡み、「返還猶予条件」を充たさずに病院をやめる場合に、残った奨学金の返還を一度に求められるような場合、これは事実上の反則金・違約金的性格を持ってきます。これは、労基法16条違反です。
 また、例えば「卒業後4年間当院で勤務した場合には、奨学金の返還を免除する」というような規定でも、奨学金の返還が多額にのぼり返還が困難な場合には、就労を強制する働きをします。この場合には、3年以上の労働契約を結んだことに等しくなります。従って、労基法14条違反となります。



6、労働条件が約束と違っていたとき


○会社に約束を守るように要求できます。

○労働者はすぐに労働契約を解除することができます(労基法15条2項)。
 有期雇用期間の途中であっても、退職することが認められます。

○退職後14日以内に元の住居地に戻る場合は、会社は必要な旅費を支払わなければなりません(労基法15条3項)。


7、退職の自由


○労働者には、原則として退職の自由があります。契約期間の定めをした場合は別として一般の正社員のように雇用期間の定めなく雇われた者は、民法第627条の規定によって「何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得」とし、その場合、(日給制及び日給月給制の者は)原則として解約申入れ後2週間を経過したときに雇用契約は終了します。(月給制のように期間をもって報酬を定めた場合は、原則前期間の前半までに申し出る必要があります。)

○有期労働契約(上記特例3に定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限ります。)を締結した労働者(上記特例1又は2に該当する労働者は除きます。)は、労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができます。
 なお、この措置は、改正法施行後3年を経過した場合において、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるまでの暫定措置とされています。


○金品の変換(労基法23条)
 労働者の死亡または退職の場合に、権利者から請求があったときには、7日以内に、賃金の支払いをし、積立金、保証金、貯蓄金その他名称にかかわらず労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません。


8、退職時の証明(労基法第22条)


労働者が退職の場合に証明書の交付を請求したときは、使用者は遅滞なく、これを交付しなければなりません。
 なお、労働者の請求しない事項を記入してはいけません。
解雇をめぐるトラブル防止のため、退職時の証明に加えて、労働者は、解雇の予告をされた日から退職の日までの間においても、解雇の理由についての証明を請求できます。

 

証明事項(労働者が請求した事項に限られます)

●使用期間
●業務の種類
●当該事業における地位
●賃金
●退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)






2005.5.27 rewrite